2019年1月15日火曜日

秒速5センチの、「十分なゆっくりさ」

山口創(やまぐちはじめ)先生が 、著書「皮膚感覚の不思議」の中で 遅速C繊維について言及しておられます。

 私たちの皮膚に存在する感覚受容器の中で、 ゆっくりと触れられた時にだけ反応する神経線維があるというのです。



進化の過程で私たちの知覚神経は、 より速く伝わるように進化してきた、と考えられています。 つまり、そのことにより、 より状況に素早く反応、対応でき、 生存に関わるリスクを回避し、 またより良いコミュニケーションを維持できる というわけですね。

だから、ゆっくり触れられた時にだけ反応する、 遅速C繊維は、進化に取り残された 古い神経繊維で、神経系が発達すればするほどその役割を失い、 やがて進化の過程で消えていくものだと 考えられていたわけです。ところが実は、どうも重要な役割を果たしてているらしい ということがわかってきたのです。むしろ、その重要な役割のために進化の過程で残された、とも言えるのです。

ゆっくりと触れられると、 遅速C繊維が反応し、 他の触覚刺激とは違った神経ルートを通って ”ゆっくりと”大脳皮質に伝わり、 しかも広範囲が活性化するのだ そうです。

実は通常の触覚刺激は、 ”速く”伝えるための神経ルートを 、より素早く伝わるように、 得られた刺激(情報)量を適度に削ぎ落として 伝達されていくらしいのです。
感覚の自動的な取捨選択、というか、神経細胞が伝えるべき情報を選ぶということが起こるんですね。。。

これが、識別感覚系と呼ばれる神経伝達ルートなのです。

識別感覚系では、多分、生存本能にとってこれは重要というような 感覚だけがピックアップされるのだろうと思います。そして、その刺激の起こった場所に対応した、大脳皮質の限られた部分だけを 活性化させ、認知や判断という処理をより”素早く”するのですね。

この神経ルートが作動するとき、私たちの意識は、外側に向くのではないでしょうか。私自身の体験から、なんとなくそんな風に感じています。



一方、ゆっくりと触れられる刺激は 、細分化されていない未発達と考えられる別ルートをゆっくりと伝わって、結果的に 大脳皮質全般を活性化させるといいます。

この伝達ルートは、原始感覚系と呼ばれます。

ゆっくりと触れられる刺激は、 遅速C繊維によって捉えられ、原始感覚系を通ってあちこち寄り道しながら、結果、ゆっくりと大脳皮質に到達し、 知覚情報としての速度や精度は落ちているともいえますが、 その代わり、大脳皮質全般が活性化され、「情動」が喚起されるというのです。

情動とは、「快」「不快」です。

快とは、心地よさであり、
愛と安らぎの感情であり、
統合的で、自己肯定的な、自己認知だと
私は捉えます。

ここがとても重要で、こうした経緯で、副交感神経系のスイッチがオンになる、 というのは、なるほど、と頷けます。

セラピストは、つまり、この「快」の引き金を引かなくてはならない、
と私は考えるのです。

そして、この原始感覚系という神経ルートが作動する時、私たちの意識は、内側に向くのではないでしょうか。





 遅速C線維が反応するゆっくりさは、 秒速5センチと言われています。

セラピストの皆さん、いかがですか?

私は、ゆったりセラピー協会のコースの受講生のセッションをモデルで受ける機会も多いのですが、 流石に彼らは、だいぶ、ゆっくりです。 でも、大概は、もう少しゆっくりだと もっと気持ちいいんだけどなーと感じることが多いのです。

そこで、そういうふうにフィードバックして、”ゆっくり触れる”ことにさらに取り組んでもらいます。

ゆっくり触れる、ということは 大変シンプルなことに思えます。 そうしようと思えば、 すぐにできそうなものです。でも、実際にはそうではないんですね。

原始感覚系が作動する十分なゆっくりさ、
秒速5センチが
「快 」の引き金を引くのです。

思考が止み、太古の感覚に還る時、
私たちの内側で
何が起こるのか、ということなのです。






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2019年1月8日火曜日

ゆっくり触れると・・・
〜セラピストの寄って立つところ

”人がリラックスしている”状態というのは、
思うよりも複雑な要素で成り立っています。

常に緊張を抱えている人、というのは案外多いんですよね。
それは、温泉サロンで施術をしていると身にしみて感じます。

温泉、という場に、わざわざいらしている、ということは、”リラックスしていい”場所に
自分で足を運んでいるはずなんですが、何らかの緊張を手放すことができずにいる。

慢性的な心身の緊張状態を引きずり、十分にリラックスできないのです。

もちろん、だから、(それを自覚しているいないに関わらず、)サロンにいらしていただいていると思います。

一般的に施術者が、躍起になってほぐそうとする筋肉のコリも、そうした心身の慢性的な緊張の現れだと認識していく必要が、私はあると思います。



 さて、私たちの心身は、リラックスしている時に副交感神経系が活性化し、休養・回復モードとなり、メンテナンスされるのでしたね。

では、緊張状態、とはどういった理解が必要でしょうか。

生存本能に従って、生命維持という大命題のために私たちのからだは、あらゆる”危険を察知”し自動的にそれに対応するようにセットされます。

これが”緊張状態”であり、交感神経系のスイッチがオン、の状態なんですね。

交感神経系のスイッチが、生物本能的に自動で瞬時に入るのに比べ、副交感神経系のスイッチがオンの状態というのは、”社会的に学ぶ”ものなんです。つまり、リラックス、とは学んでいくものであり、学ばないと手に入れられない、と理解しなければなりません。実は、ここがボディワークなんですよ。

学ぶ、というとあたかも知識を得ていくことのように思われる方もいらっしゃると思いますが、ここでいう 学ぶ、とは、ボディランゲージというか、自分自身の内側の感覚に気づくというか、言葉以前のからだに刻み込んでいく学びというか、からだで覚えるというか、そういうレベルの「学ぶ」です。

実は私たちは、この「学び」を十全に行うために、わざわざ未熟な状態で生まれてくるように進化したのです。群れを作り、社会を構成するために有用な神経系を発達させるためでした。
生き残るために、より頑健な肉体に進化していくことよりも、それらを手放すことで、神経系に刻まれた高度なコミュニケーション能力によって社会化し、安心と安全を確保することを選んだのです。(正確には、その種が偶然にも最終的に人類として生き残ったというわけですね。肉体強靭派は早い時期に絶滅してしまったらしいのです。。)


世界がどのように安全で安心できるものなのか

私たちは、赤ん坊の時に、お世話をしてくれる大人から(多くは、母親だと思いますが、)そのタッチや声音、表情や空気感から学びます。

この学びは、神経的な刷り込みとなっていきます。つまり、反射的な神経反応になっていくのです。そしてこれらのコミュニケーションに関わる神経反応は、その個人の生育環境から、言葉以前にからだで学んで得ていく、その人特有の”固有”の神経反応になるのです。

(これが、私が、ポージェス博士のポリ・ヴェーガル理論 (多層または多重迷走神経論)から得た認識なんです。邦訳が去年出版されていますが、実はまだ読んでいないのですよ。違っているところがあったら、指摘していただけるとありがたいです。)



”リラックスしていいかどうか、実際にどのようにリラックスするか”は、まだ言葉を習得する以前にからだで学び、その頃に設定された社会神経反応に左右された、その人固有のの社会環境(=家族環境)からの学びの結果です。

このことは、のちに大人になったその人の社会生活を決定づけます。つまり、コミュニケーションのあり方、リラックスのあり方を無意識レベルで左右するのです。

ある人にとってはリラックスできる状況がある人にとってはそうでなはい、ということが起こりますし、リラックス、というのは、繊細で複雑な心身の神経反応であり、同時に社会的であり統合的なものなのです。

そして、リラックスは、私たちが心身を健康に維持していくために絶対的に、かつ定期的に保持されなくてはならない心身にとって必要な状態であり、「社会」(=コミュニケーション)を健全に維持していくための要でもあります。

だけど、多くの人が十分”リラックス”できないために、様々な心身の問題を抱えていくのです。それは、大人になって、リラックスを再度学ぶ、健全な機会があまりにも少ないからです。飲酒や、喫煙や、その他の何らかの依存状態が、リラックスの代替になっていることが多いわけですが、健康や関係性を損なうリスクが付きまといますし、実際にそのリスクに直面している人も多いでしょう。

緊張状態は、日々の生活の中で波のように、時には嵐のように繰り返しやってきますが、それは生物本能的にそのようにからだがセットされているからです。”緊張”は、生き残るための反応なのです。そしてその反面、その緊張を解きリラックスする方法を、私たちは、意図的に学ぶ(=体験する)必要があり、それを実践する必要があります。そうでないと心身のバランスを保つことができず、リラックスを”繰り返し”実践しない限り、心身は疲弊してしまうのです。

加えて現代社会は、物と情報の大量消費を前提とし、環境破壊的で、人工的に緊張状態を生み出す方向性に溢れています。

我々セラピストは、ここを出発点とするべきだと、私は常々考えています。




リラックスは、副交感神経系のスイッチがオンになってもたらされる心身の状態でしたね。そしてそれが心身の休養と回復、メンテナンスを促し、さらには自然治癒力の発動を促すのです。

だけど、同時にリラックスは、固有に刷り込まれた(学んだ)社会的神経反応に左右され、複雑で繊細な、その人その人の独自の機構なのです。


では、我々セラピストは、どのように、
どの人の”リラックス”(副交感神経系)スイッチも
確実に”オン”にできる技を使えるのでしょう?


そのことへの答えを今から述べましょう。


人は、触れられる、という体験がいつでも安心で安全な体験であったとは限りません。触れられることで、逆に緊張してしまう人も、実は、たくさんいることを私は長年の施術の体験から学んでいます。

それは、今日述べたような言葉以前にからだに刻まれる、社会的神経反応のなせることです。リラックスは、本人さえも気づかない無意識レベルに沈んだ、からだの引き金(神経反応)に操作されるのです。

だけど、私の経験から、ほぼ100パーセントの人に有効と思われる、確実な、リラックスを引き出す、触れる技があります。

それが、「ゆっくり触れる」ということなんですね。

これが、エサレンアプローチの実践で私が学び、30年という歳月をかけて自身を鍛錬してきたことでした。


シンプルすぎて

だからそれが何~?!

と思われる方も多いでしょう。


でも、ゆっくり触れる、ということは施術者にとってそんなに簡単ことではありません。我々セラピストは触れる時、普段のパターン化した自身の心身の使い方から”素早く”触れがちなのです。そのことにより、クライアントのリラックススイッチ(副交感神経神経活性スイッチ)を、十全にオンにすることができない、ということが起こります。

そこから一歩出て、新しく学び、身につけた身体技法を使って、十分に”ゆっくりと”クライアントに触れる必要があります。

そのことにより、クライアントの副交感神経系を確実に作動させ、深いリラックスへとガイドすることができるのです。

これは、 ゆったりセラピー協会で行なった実証実験でも示されたことでした。

 ゆったりセラピー協会で行なった実証実験
2014年秋に行われた、ゆったりセラピーを受けた場合と、
通常のいわゆる揉みほぐしの施術を受けた場合の
自律神経系の数値の違いについての、実証実験の結果報告。
桜美林大学の山口創教授に分析していただきました。
山口先生には、実験の組み立てから機器の提供など、
実験の全般にわたってご協力いただきました。
(2015年2月11日開催のゆったりセラピー研究会からの映像。
音声が聞き取りにくいですが、ご容赦ください)


リラックス=リラクセーションまたはリラクゼーションとは、

脳神経系のリセット効果を生み、だから、筋肉のコリも解消する、そうした順番で捉える必要があると私は考えています。

施術者が、外側からコリに働きかけてなんとかほぐそうと、あれこれ触れるのとは全く違った効果が、エサレンアプローチの求めるところであり、それを十全に生かす施術の体系が、ゆったりセラピーです。

加えて、施術者が、身につけた身体技法と技で、ゆっくり触れる時、同時に自身もゆっくりと触れられる体験をすることになリます。こうして施術者自身のリラックススイッチ(副交感神経スイッチ)も作動し、自身の心身のメンテナンスも同時進行でなされるのです。

このように、ゆったりセラピーでは、セラピーの双方向性と相乗効果が生み出されていきます。

これが、ゆったりセラピーの特徴であり、その身体技法が、”和の身体技法”です。

同手同足で手を差し伸べ、すり足で動き、寄りかかり、返しを捉え、さらに手のひらを柔らかく使って、クライアントのからだにどこまでも寄り添っていく、深部組織を感覚し触れていく。このようにして、クライアントに安心安全を再体験してもらう。リラックスを味わってもらう。そして、慢性化している緊張状態から、自ら解放される。

コリは内側から、解けて軽くなっていくものです。

そこを目指し、そこに寄って立つ、セラピストでありたいと思います。



ゆっくりと触れる、とき、もう一つ、注目しておきたい神経生理があります。


それは、ゆっくりと触れられた時だけに作動する、「遅速C繊維」と呼ばれる神経繊維の存在です。ここまでで十分に長くなってしまったのでページを変えて、それについては述べますね。

 次ページはこちら
秒速5センチの、「十分なゆっくりさ」



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【書籍】

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詳しくは、こちらから
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また、上記の書籍に書ききれなかった

社会神経系については、


【「なぜ、顔なの?」メール講座】

に書いています。


詳しくはこちらから
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