エド・モーピンインタビュー(2006年春編ニュースレターより)
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2006年4月発行
心とからだ・私とあなた・ボディワークで編む
amuニュースレター
vol.21より
ロルフ式身体統合法
エド・モーピン×インタビュー
よく晴れた、春まだ早い午後、サン・ディエゴにあるエド・モーピンの自宅を訪ねた。
木造の、ひと昔前、日本によくあったような古い洋館を思わせる家だった。玄関を入ると、リビングルームがあり、その奥には、日差しが柔らかく差し込む、彼のワークルーム(ロルフ式身体統合法の10セッションを行う部屋)があった。
エド・モーピン。ボディーワークの学校では全米でもっとも評価の高い、IPSB(インターナショナル・プロフェッショナルの代表であり、おそらく、もっとも経験を積んだロルファーである。
エド・モーピンが、エサレン研究所の共同創設者であるマイケル・マーフィーに招かれてエサレンを訪れたのは、35歳の時だった。期待された若き心理学者として、かねてからマイケルの構想であった、エサレンの宿泊プログラムをリードするために選ばれたのだ。
エドは、妻と娘を連れてエサレンに移り住んだ。1960年代半ばであった。そこで、彼は運命の出会いをすることになる。”アイダ・ロルフ”。彼女は、そのとき、80歳だったという。その出会いが、その後、彼にボディーワーカーとしての道を歩ませることになる。
アイダ・ロルフはどんな人だったんでしょう?
「ボディ・サトヴァ(菩薩。神(仏)が人間の肉体を借りて現れること)だった。隣に座るだけでぞくぞくしたよ。それまでの30年間、アイダの本当の考えに耳を傾ける人は誰もいなかったんだが、エサレンに来て初めてみんなが彼女の言うことを理解しようと耳を傾けたのさ。それが彼女にとってどんなことだったか。アイダは、当時エサレンにいた何人かに、自分のメソッドをトレーニングすることにしたんだ。僕のタッチが気に入っていたよ。」
ディープ・ティッシューとストラクチュアル・インテグレーションとは、何がどう違うんでしょう?
「ストラクチュアル・インテグレーションのレシピ、10セッションは、宝物なんだよ。あれから35年以上経った今でも、いや、実践を重ねれば重ねるほど、宝物だったとしか言いようがない。ディープ・ティッシューというと、僕の中ではあまりこうだというはっきりしたことは思い浮かばない。僕と一緒に「ロルフィング」を探求して6年ほど経った頃に、彼女は、ディープ・ティッシューやマッスル・スカルプティングなどのコースを見出したんだ。だから、ディープ・ティッシューというと、僕は単に、「ロルフィング」の中で得た知識や経験の一部分というふうに思う...。
「じゃ、ロルフ・ストラクチュアル・インテグレーションとは何かというと、ただ深部に触れるというものではなくて、動きを見極めないといけない。ディープ・ティッシューのテクニックを使いながら、僕が体幹部のワークとするとしたら、身体そのものが、動きの中におのずと統合されていくということが、ほとんどの場合起こるんだ。」
「僕は、アイダ・ロルフのメソッドを伝えたい。35年以上実践してきて、ようやくあの時、アイダが僕に伝えてくれたことの真髄が明確に分かるようになったと感じる。また、それを言葉によって他の人たちに伝えることができるようになったとも思う。日本に僕のワークを伝えるときには、「ストラクチュアル・インテグレーション・オブ・ロルフ・メソッド(これをロルフ式身体統合法と訳した)」。そう、ロルフ・メソッドと言ってほしいね。」
当時博士論文で、「心理学と禅メディテーション」を書かれて、注目されましたね。そこでマイケルは、あなたをエサレンに呼びたかったのでしょう。いわば「日本文化」が研究テーマだったのに、まだ一度も日本にいらしたことがないんですか?
「行ったことがないね。うーん。僕が僕自身でいるためには、僕の文化の中にいることが大切なんだ。日本は...、僕は日本にとても惹かれていたけれど、なんていうかな、訪れるということは一度も考えなかった。」
エドは、困ったような、遠くを見つめるような目で、はにかむように笑う。
「僕がエサレンで住んでいた家を知っているかね。マイケルは、23Aの隣の家を与えてくれたんだ。その家に2年ほど住んだかな。そうそう、僕がエサレンの菜園を始めたんだよ。娘のために人参の種をこうやってパラパラと蒔いたんだ。それが、エサレンの菜園の始まりさ。」
インタビュー・文=鎌田麻莉
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エド・モーピン
心理学博士。ロルファー。1960年代、エサレン研究所の初期の宿泊研修プログラムにリーダーとして関わる中でアイダ・ロルフと出会い、彼女のメソッド、スラクチュアル・インテグレーションを学ぶ。それ以来、現在に至るまで、休むことなくロルファーとして個人セッションを行っている。1970年代、全米で最初に、ボディーワークの分野のマスターコースとして認可されたIPSB(インターナショナル・プロフェッショナル・スクール・オブ・ボディワーク)の創設のために骨を折った。現在、同校の代表を務める。
※ エサレン研究所で、エドが住んだという家は、今でもスタッフの居住にそのままの姿で使われている。また、エドが始めたというエサレンの菜園は、今では、エサレンを訪れる年間1万人を超える人々に、新鮮な野菜を毎日供給するまでに広く大きくなっている。
注)
アイダ・ロルフ 1896-1979。自らストラクチュアル・インテグレーション(身体構造の統合)と呼ぶ、独自の理論によるボディワークを創設した。1960年代、ゲシュタルト・セラピーの創始者、フリッツ・パールズを施術したことがきっかけで、エサレン研究所を訪れるようになり、エサレンで施術者やインストラクターの養成を行った。「ロルフィング」とは、エサレン時代にエサレンの人々が、彼女のワークを呼んだ愛称である。この「ロルフィング」という名称が、彼女のワークとして広く知られるところとなり、現在はロルフ研究所(コロラド州)の登録商標となっている。
ディープ・ティッシュー :深部組織に働きかける手技の総称
ストラクチュアル・インテグレーション :アイダ・ロルフ博士が創始したボディワーク。 ロルフィングとも呼ばれる。
マッスル・スカルプティング :筋組織を深くなぞっていく手技。
ロルフィングについて
ロルフィングと言う名の由来は、創始者アイダ・ロルフ博士の名前からつけられたもので、元々ロルフ博士がストラクチュアル・インテグレーション(S・I)と呼んでいた技術のあだ名みたいなもので、創始者とそのワークの強烈な印象から”ロルフる”って言う感じで付けられた名称です。
ロルフ博士自身は最初この名前を嫌がっていたみたいです。
ロルフ博士は常々、”ロルフィングは治療ではなく、教育である”と言っていました。それは身体の症状を治すのではなく、個人の持つ身体の可能性を、最大限に生かして機能する様に導く事が、ひいては人格的(感情的、知的、精神的)にも、より高い質を引き出すことになると言う彼女の自論によります。病的症状が改善されるのは重力のおかげと言うことにしていました。以下、ロルフィングのキーワードといえる重力・可愬性・総合性・成熟について簡単に説明します。
重 力
ロルフィングについて語るときに欠かせない重要な要素が重力です。人間が地球上で生存する限り重力は普遍的に存在し、私たちは重力の存在ゆえに真っ直ぐという感覚を持つことが出来るのです。常に垂直にかかる重さの流れに対して自分の体重が負担になったり、また逆に安定を感じたりします。二本の脚で身体を支えるには、どの様に身体の重さが足までたどり着き、地面からの支えがどのように頭までたどり着くかという事が問題なのです。
ロルフ博士は生徒達に”ロルフィングはシャーマニズムに近い”と発言した事があります。それは、ロルファー(施術者)がお祈りをするという様な事ではなく、普遍的な存在である重力と、人々とのより良い関係を取り成す媒体であるという事だと思います。
可愬性
身体の可塑性ということも大きな要因です。結合組織の変化により身体はある程度形を変えることが出来ます。我々が主に働きかけるのは、筋筋膜と呼ばれる筋肉組織をくるんでいる結合組織です。筋肉と分けて考える事の出来ない組織ですが、筋肉から腱、骨膜、靭帯へと膜組織のリレーを通して身体全体を視野に入れています。一部分の不都合に囚われるのではなく、全体との関係で部分を見、部分的アプローチが何処に全体に反映するかを感じ取れるように働きかけます。
ロルファーは膜組織の癒着を剥がしたり、色んな方向に拮抗してバランス状態を変えていきます。
そうして変化したものはそのまま変わりなく維持されるのではなく、常に良くも悪くも変わり得ます。身体は何もしなくても新陳代謝を繰り返し環境や使い方の刺激に適応し変化し続けているのです。
総合性
ロルフィングは、身体の一部を治そうとか良くしようという発想ではなく、身体全体ひいてはその人全体が単一の存在としてどのような現われを成しているか、より良い現れ方は可能かという見方をしています。人間はもともと単一の細胞(受精卵)から分化した、未だかつてパーツを分離させた事のない存在ですから、どのような状態であれ、常にある種の統合性を保っているわけですが、ロルフィングはその統合性のより良い表現を模索していると言っても良いでしょう。身体の中の悪い部分を取り替えたり、修理したりという発想とは視点を全く異にしているのです。今ある中でどの様な関係性を見つけ出すかと言う事なのです。
どのようにより良い統合を模索するかについてですが、まずは重力に即した状態で無理なく、無駄なく立てるか、そのためにそれぞれのパーツがそれぞれのすべき仕事を全員一致で行っており、足を引っ張る因子がいないかを見ています。それは総ての動作に尽いて同様で、ある動作をするために身体のパーツが全員一致で働ける様な、個々のパーツの働きと連係を見い出したいのです。ほとんど総ての人は、あるパーツまたは複数のパーツが全体の意向とは無関係の動作を行っていると考えて良いでしょう。もちろん完璧になることはないので、誰もがより統合された状態に近づける余地を持っているとロルファーは考えます。病んでいようが、無病であろうが、誰もがより統合された状態に近づく途上にあるという事です。
成 熟
ロルフ博士は、また、成熟ということについて考えました。例えば、大人の顔をしていながら子供のような体つきであるとか、大人の身体に子供のような顔とか、下半身だけが幼児体型だとか、色んな組み合わせで成熟度合いが統合されていない事もよくあります。これは身体の見栄えと言うだけではなく心理的にも反映している事のように思われます。ここでも全体を通してお揃いになる事、その年齢に見合った統合の在り様があるのです。年齢相応のらしさ、1歳なら1歳、40歳なら40歳に見合った行動として表され得る、身体的充実と人格的充実を成熟と見ています。そういう意味でロルフ博士は、ロルフィングを通じて成熟した人々による成熟した行動によって成り立つ成熟した社会と言うものを夢見ていたようですが、機は成熟していない様です。
文=幸田 良隆
:ロルフ研究所(コロラド州)を1987年に卒業。ロルファーとして活動を始める。日本人では最初のロルファー。1989年帰国した。1993年頃から海外から講師を招いて、クレニオ・ワーク、センサリー・アウェアネス、コンティニュアムなどのワークショップを企画し始め、1999年頃から、クロニック・スチューデンツとしてワークショップ開催を行っている。現在、東京、京都、大阪でロルフィング、クレニオ・ワークの個人セッションを行う。
この文章は、日本のロルファーの第一人者である幸田良隆さんからご好意によって、寄稿いただきました。
現在、日本ではアイダ・ロルフ博士によるメソッドは、「ロルフィング」「S.I.(ストラクチュアル・インテグレーション)」「シン・インテグレーション」などの名称で実践されています。
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