秒速5センチの、「十分なゆっくりさ」
山口創(やまぐちはじめ)先生が 、著書「皮膚感覚の不思議」の中で 遅速C繊維について言及しておられます。 私たちの皮膚に存在する感覚受容器の中で、 ゆっくりと触れられた時にだけ反応する神経線維があるというのです。 進化の過程で私たちの知覚神経は、 より速く伝わるように進化してきた、と考えられています。 つまり、そのことにより、 より状況に素早く反応、対応でき、 生存に関わるリスクを回避し、 またより良いコミュニケーションを維持できる というわけですね。 だから、ゆっくり触れられた時にだけ反応する、 遅速C繊維は、進化に取り残された 古い神経繊維で、神経系が発達すればするほどその役割を失い、 やがて進化の過程で消えていくものだと 考えられていたわけです。ところが実は、どうも重要な役割を果たしてているらしい ということがわかってきたのです。むしろ、その重要な役割のために進化の過程で残された、とも言えるのです。 ゆっくりと触れられると、 遅速C繊維が反応し、 他の触覚刺激とは違った神経ルートを通って ”ゆっくりと”大脳皮質に伝わり、 しかも広範囲が活性化するのだ そうです。 実は通常の触覚刺激は、 ”速く”伝えるための神経ルートを 、より素早く伝わるように、 得られた刺激(情報)量を適度に削ぎ落として 伝達されていくらしいのです。 感覚の自動的な取捨選択、というか、神経細胞が伝えるべき情報を選ぶということが起こるんですね。。。 これが、識別感覚系と呼ばれる神経伝達ルートなのです。 識別感覚系では、多分、生存本能にとってこれは重要というような 感覚だけがピックアップされるのだろうと思います。そして、その刺激の起こった場所に対応した、大脳皮質の限られた部分だけを 活性化させ、認知や判断という処理をより”素早く”するのですね。 この神経ルートが作動するとき、私たちの意識は、外側に向くのではないでしょうか。私自身の体験から、なんとなくそんな風に感じています。 一方、ゆっくりと触れられる刺激は 、細分化されていない未発達と考えられる別ルートをゆっくりと伝わって、結果的に 大脳皮質全般を活性化させるといいます。 この伝達ルートは、原始感覚系と呼ばれます。