「あなたは、今、何を感じていますか?」ー感覚と想念・思念
長年、セラピスト・トレーニングの現場で受講生を見てきて、最初は、「カラダの感覚」と「考えていること」が一緒くたになって区別がつかない、という状態の方がほとんどです。
ここでいう、「考えていること」というのは、想念、あるいは思念、というか、心の中に思い浮かんでくるあれこれ、ということです。私たちは、大抵、心の中にいろんな考えや思いが浮かんできては消え、浮かんできては消え、というような状態だと思うのです。
ゆったりセラピー基礎講座や、心で触れるボディワーク本格コース(全身オイルトリートメント)の一番最初の重要な問いかけは、
「あなたは、今、何を感じていますか?」です。
その問いに答えるとき、「考えていること」をとうとうと述べる、という人がほとんどなんですね。繰り返し、「あなたは、今、何を感じていますか?」とまた、問いかける。するとまた「考えていること」をとうとうと述べるということが起こる。ここで「考えていること」、というのは、体系だったというか、積み上げていくような、つまり「思考」ではないですよね。
想念または思念というような、心の中に脈絡なく浮かんでくる、晴れた空に次々と浮かんでは消え浮かんでは消えする様々な形の雲のようなもの。または、人によっては、常に同じ雲の形が浮かんでくる感じの人もいますけれど、そんなふうにある種の想念や思念に固まっている人もいる。いずれ、私たちはなんであれ常にこうした考えや思いと一緒にいると言っていい。
「あなたは、今、何を感じていますか?」この問いに答えるために必要なのは、こうした常に心の中に浮かんでは去っていく雲のような、様々な考えや思いに注目するのではなくて、その注目を意識的にカラダそのものが今その瞬間キャッチしている、「感覚」に向け直す、という作業なのです。
すると、初めて、感じていることは何か、想念でもなく思念でもない、「考えていること」ではない、「カラダの感覚」にようやく気づくのです。そして、それを言葉にしようとすると言葉が見つからない、という体験をする。あるいは、思いもかけず感情が溢れ出し、涙や笑い、震えが起こる。
ここが重要な変容のポイントです。カラダに気づくとはそういうことです。カラダあっての自分に行き当たる。そして、自分が何を感じているのか、言葉を探す体験が、本来の自分と向き合う行為なのだ、というのが、ボディワークということなんですよね。これは私がかって若い頃、エサレン研究所で学んだ最も重要な事柄であり、体験でした。
トレーニングコースの中で、受講生は、相モデルでの実技実習、そしてその後のフィードバック(つまり、「あなたは、今、何を感じていますか?」の問いかけの時間)の体験を重ねて、施術者(セラピスト)となっていくのです。
私は、明確にそのプロセスを意識してコースを運営します。 なぜかというと、流れる雲のような考えや思い(想念や思念)から脱して、自分のカラダそのものの感覚に意識を向けることに上手になっていく、そして、今まで気づくことがなかった様々な「感覚」をキャッチできるようになると、格段にカラダの使い方が上達するのです。そしてもちろん、手技(施術)も上達していきます。
こうしたプロセスを飛ばして、ゆったりセラピーの施術を習得していくことはできない、というふうに私は考えています。
また、自分のカラダの感覚に意識を向けるということは、実は同じ神経回路でもって、他者のカラダの感覚に意識を向けるということも可能になると私は感じています。だから、自分のカラダの感覚に気づけば気づくほど、他者の有り様に多くさまざま気づいていくことになります。セラピストのみなさん、どうですか?
施術を行うにあたって、施術を受ける方のさまざまに気づく、気づいている、ということは重要です。そのことなしに、どんな素晴らしい技をセラピストが持っていたとしても、その技はクライアントのために活かせないんですよね。
「あなたは、今、何を感じていますか?」からコースをスタートし、コースの中で繰り返しその問いかけをする。それが、ゆったりセラピーのトレーニングです。
施術を覚える、というミッションはあるのですが、施術というのは、実際問題、経験を重ねて上達していくものなので、トレーニングコースの中で全て施術OK、というふうにはなりません。トレーニングが終了した段階で、スタートラインに立つ、ということだと思います。そこからが始まりです。
スタートラインに立つ、ということは、
「あなたは、今、何を感じていますか?」の問いに答えられるようになっている、ということです。また、適切なタイミングで、その問いかけを自分自身にも受け手の方にも発することができるようになっている、ということです。最低限そのやり方が分かっていれば、その先、施術が上手になっていくのです。私はそれを信頼しています。


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